解決事例
- 2023.04.29
- 相続人の一人がその全額を解約出金した被相続人の預貯金のうち、依頼者の相続分について、不当利得返還請求訴訟を提起し、一部の回収に成功した事例
事案
相談者のお母様が亡くなられました。相談者のお母様は、夫(相談者の父親)と離婚した後に別の男性(相談者にとっての継父)と再婚しておりました。相談者はお母様とは離れて住んでいたため、その継父が、お母様の葬儀や関係各所とのやり取りなどの手続を全て行っておりました。
その中で、相談者は、継父から、相続手続に必要だからと言われ、実印や印鑑証明書を送って欲しい、実印はこちらで手続に費用な書面に押印したらすぐに返すから、などと頼まれ、何度か実印と印鑑証明書を継父に送ったりしていました。
その数か月後、相談者は、たまたま、お母様の知り合いの方から、お母様が生前それなりの金額の預貯金を貯めていたと言っていたと聞かされました。生前、お母様が相談者を受取人とする生命保険に加入されていたため、保険金が相談者のもとに支払われており、相談者としては、それ以外の遺産がないものと思い込んでらっしゃったようでした。
そこで、預貯金がどれほどあったのか、相続調査のご依頼を受けたのが本件です。
解決方針
お母様が生前持っていらっしゃった銀行口座にお心当たりがあったようなので、その銀行に対して取引履歴の照会を行いました。取引履歴の照会には戸籍関係も必要となるため、当方で戸籍を全て取寄せて照会手続書類と併せて各銀行に送付し、取引履歴を取り寄せました。
そうしたところ、相談者が継父に実印と印鑑証明書を送付した時期に、口座が解約されて出金されていたことが判明し、どうやら継父がお母様名義の口座を解約して出金していたであろうことがわかりました。
そこで、その継父に対して、出金した分のうち、相談者の法定相続分2分の1については、相談者に受け取る権利があると主張し、不当利得返還請求訴訟を提起しました。
訴訟期日にて、継父は、既にいくらか費消した部分があると説明し、全額返還することはできないと主張しました。そこで、何に費消したのか、いくら金額が残っているのかを細かく確認しました。その上で、仮に判決手続まで進んだ場合、強制執行手続を採ることで回収することができるのかをよく検討し、相談者とよく協議しました。そのうえで、判決ではなく、継父の手元に残っている金員を全額一括で支払ってもらう内容で和解をすることとなりました。
当事務所コメント
被相続人の預貯金については、手元に通帳が無かったり、他の相続人が一切教えてくれなかったりといった事情により、残高がいくらあったのかがわからないというケースは多々あります。その場合でも、各金融機関に対して、戸籍等の必要書類と併せて取引履歴の照会手続や被相続人死亡時における残高証明書の取得手続を行うことは可能です。戸籍等の収集から各金融機関に対する手続等も含め、弁護士にご依頼いただけましたら相続調査という形で行うこともできます。
本件では、相続調査という形でご依頼をいただき、その結果判明した出金について、相手方に請求する方針で不当利得返還請求事件としてもご依頼をいただきました。入手した取引履歴から読み取ることのできる情報もたくさんありますので、まずは相続調査という方法で是非とも弁護士をご活用いただければと思います。
また、本件では、他の相続人から手続きに必要と言われたことで、相談者が実印と印鑑証明書を安易に送付していたことが、被相続人の預金口座の解約及び出金といった結果を生んでしまったものです。基本的には、被相続人が亡くなった時点でその預金口座は凍結され、相続人全員の署名押印がなされた遺産分割協議書や、各金融機関所定の名義変更依頼書や解約依頼書といった書類がなければ、口座の解約や出金は行い得ません。
相続という慣れない場面において、諸々の手続をしなければならない必要に追われる中、つい他の相続人から言われて内容を確認しないまま署名押印をしてしまったといったケースは珍しくありません。しかし、署名押印した後に撤回することは基本的に難しいと言わざるを得ません。署名押印する前に、まずは、内容を確認し、内容について不明な点等があれば、是非とも相続分野を専門とする弁護士にご相談ください。
こんなお悩みありませんか?
相続相談解決事例
相続の争点
この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)