解決事例
- 2023.11.07
- 兄から一方的に金融機関へ提出する口座解約のための書類に署名押印を求められたことから、代理人を入れて遺産分割協議を行った事例
事案
お父様の遺産分割について、次男がご相談にこられた事案です。お母様を早くに亡くし、お父様が和歌山県にある実家で長年お一人で暮らしておりました。その実家から1駅くらいの距離に長男が家族と居住していたそうです。大阪に住む次男は、長男から、お父様の訃報を受け、葬式、通夜、告別式等に出席し、これらは滞りなく済んだのですが、その後、長男から、いきなり書類が送られてきました。そこには、これらにサインするよう求める手紙が添えられているだけで、書類について何の説明もされておりませんでした。次男が見たところ、その書類は、被相続人名義の口座の解約及び払戻しに必要なもののようでした。
次男は、もともと長男と折り合いが悪かったのですが、それでも長男に確認しなければと考え、長男にどのような書類なのか説明して欲しいこと、父親の預貯金の残高がいくらだったのか教えて欲しいことを伝えましたが、いいからサインして返送しろと怒鳴られるばかりで一切説明を受けられませんでした。
その後も、何の説明を受けられることのないまま、ただ書類にサインをするように催促の連絡をしきりに受けるようになり、遺産の全体像について何の説明も受けられないまま、一方的に書類のサインのみ求められることに納得ができなかった次男がどうすればよいかとご相談に来られました。
解決方針
今後、当事者同士で話をすること自体が精神的に大きな負担というお話もあったため、以降の遺産分割協議については弁護士が代理人となり交渉の窓口となって相手方とやり取りを行うこととしました。まずは被相続人の遺産内容を明らかにする必要があったため、相手方に対し、弁護士が受任したことを通知する書面を送付し、併せて、遺産の全体像がわからないまま一方的に書類に署名押印はできないと伝え、遺産の開示を求めました。
そうしたところ、長男の代理人弁護士から、代理人に就任したことと併せて遺産分割調停を申し立てる予定であることを内容とする連絡書が届きました。
遺産分割調停の申立書には、遺産目録として、被相続人の遺産の内容が列挙されるのが通常です。そこで、長男側からの調停に応じ、申立を受けることで遺産の内容を明らかにさせることとしました。
家庭裁判所から、長男側による調停申立書が届き、そこで初めて被相続人の遺産の全容が判明しました。それによると、被相続人は、実家の不動産の他に山林や、複数の金融機関に預貯金口座を有していたようでした。
長男側の提出した申立書には、長男が具体的にどのような分割を希望するかまで記載されておりませんでした。そこで、当方から、未だに当事者間で具体的な分割協議が一切出来ていない段階なので、申立人側から希望する分割案を提示するように求めました。
次男からのお話によれば、長男の性格から考えると無茶な分割案が提示されるかもしれないとのことでしたが(例えば、全て長男側が取得するといった内容の分割案)、実際には、長男が実家の近くに居住して被相続人の面倒を度々見ていたことを踏まえ、長男が不動産を含めて法定相続分を少しだけ上回る形で取得し、次男が残りの預貯金を取得するといった内容の分割案が提示されました。
次男としても、長男が被相続人の面倒を見ていた事実を否定する意向はありませんでしたし、想定していたほど無茶な分割案ではなかったので、早期解決のために長男側の案を受け入れることとし、調停が無事に成立しました。
当事務所コメント
相続に際し、これまでの関係性から、相手方から一方的に強く言われてしまい、こちら側の主張を全く言えないことに悩んでおられる方はいらっしゃいます。また、当事者どうしでの話合いでは硬直してしまい全く話が進まないといった事態も生じかねません。話を前に進めたい場合、相手方との直接のやり取り自体が負担となる場合には、是非とも弁護士をご活用ください。
本事案の場合、弁護士が代理人についた旨と、相手方からの一方的な要請には応じない旨をしっかりと書面で伝えたことで、相手方においても、弁護士に対応を依頼せざるを得ないと考えたものと思われます。相手方本人としては無茶な主張をしたかったのかもしれませんが、相手方の代理人弁護士がそのような主張は通らない旨言って、本人を説得したのかもしれません。
法律に基づかない無茶な主張を裁判で通すことは困難です。弁護士が間に入るということは、相手方の無茶な主張を抑えるといった効果をもたらすこともあります。本事案でも、双方に弁護士がついたことで、法律に基づいた現実的な解決を迅速にもたらすことができたものと考えております。
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この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)