解決事例
- 2024.04.23
- 父と同居していた自宅を遺言により相続したとして占有を続ける三男に対し、長男が遺言執行者としての管理処分権に基づき、建物明渡しと自宅売却に成功した事例
事案
本事案において、被相続人であるお父様には、長男、二男、三男の三人の子どもがいました。被相続人は神戸市内に自宅(土地建物。時価総額約6000万円)をお持ちで、妻と三男家族とともに暮らしていましたが、5年ほど前に妻を亡くした後は、自宅1階には三男家族が、2階には被相続人が生活する形で同居していました。
長男は、母が亡くなってから、毎週末、被相続人の自宅を訪ねるようにしていましたが、その度に、被相続人の口から三男家族に対する不満を聞かされるとともに、「三男に自部の財産を全部持って行かれる」というのが口癖でした。そのため、父の口癖を不審に思った長男の薦めにより、被相続人は、令和元年に「自分が亡くなった後は、自宅を売却し、売買代金から諸費用を控除した残金を3分の1ずつ、兄弟仲良く分けること」を内容とする公正証書遺言を作成することにしました(「令和元年遺言」と言います)。なお、遺言執行者には長男が指定されていました。
遺言書作成から約3年が経過した頃、被相続人が亡くなりました。そのため、長男は遺言執行者に就任した上、三男家族に対して、遺言書に基づき売却したいので、自宅建物を明渡すよう求めましたが、三男は、父が10年以上前の平成25年に作成した公正証書遺言(「平成25年遺言」があり、そこには、生前に自分の身の回りの世話を献身的にすることを条件に、自宅の土地建物を三男に相続させるとの内容が書かれているとして、明渡しに頑として応じようとしませんでした。
そのため、困り果てた長男と二男が当事務所に相談に来られたのが本件になります。
解決方針
三男にも代理人弁護士がすでに就いていましたので、当職らは長男の代理人として、三男に対して、自宅建物に関する使用貸借契約を解除するとともに、令和元年遺言に基づく遺言執行者の管理処分権に基づき、相当期間経過後に自宅建物を明渡すよう求める通知文を内容証明郵便にて発送しました。
これに対して、三男代理人からは、➀令和元年遺言が被相続人の錯誤に基づき作成されたもので無効であること、➁被相続人と三男との間には、平成25年遺
言に基づき、自宅に関する負担付死因贈与契約が成立しており、父の世話を献身的にしてきた三男は負担を履行したといえることなどを主張してきました。
そのため、これ以上の話し合いをしても解決は困難であると判断し、自宅建物について占有移転禁止の仮処分の決定を得たうえ、長男から、自宅建物の明渡しを求めるとともに、長男及び二男から、使用貸借契約の解除通知後、明渡し済みまでの期間における賃料相当損害金の支払いを求める訴えを、三男に提起することとなりました。
第1審裁判所の審理は、双方の主張立証活動の後、長男、二男及び三男の当事者尋問も行った末に、三男の➀➁主張はいずれも認められないとして、訴え提起から1年9ヶ月後、長男、二男の全面勝訴判決を得ることとなりました。三男は控訴しましたが、控訴審においても第1審判決を支持する判決内容が下された結果、三男は観念したのか、控訴審判決が確定した後になってようやく、自宅建物から立ち退くこととなりました。
その後、長男が遺言執行者として、三男ら家族が立退き、残置物撤去やハウスクリーニングを実施した後の自宅を売りに出した結果、長男、二男の希望価格であった6000万円ですぐに買手が見つかり、売却に成功することとなりました。
当事務所コメント
被相続人が生前に遺言書を何度か作成している事案がよくありますが、この場合、各遺言書に書かれた内容が矛盾抵触する範囲内において、後の遺言の効力が優先されることになります。したがって、本事案において、平成25年遺言、令和元年遺言とも有効に作成された遺言であることを前提とすると、令和元年遺言の効力が優先するため、三男の主張は認められないこととなります。
そこで、三男側代理人は、➀令和元年遺言の内容が難解であることから、日本語の読み書きが不自由であった被相続人にはその内容が理解できないまま、長男の指示により令和元年遺言書が作成されたものであり、錯誤により無効であること、➁平成25年遺言の作成を通じて、被相続人と三男との間に負担付死因贈与契約が成立していたことを主張・立証することになりました。
そのため、審理に長期間を要することとなりましたが、当事務所としては当初より、上記➀➁の主張はいずれも法的主張として無理があり、また立証も困難であることは明らかであるとの感触を持っておりました。その結果、最終解決までに時間は要しましたが、令和元年遺言書の内容通りの結果をもたらすことに成功しました。
相続紛争については、経験に裏打ちされた、事案における筋の見立てが重要です。相続紛争に直面しましたら、ぜひ、解決事例が豊富な当事務所にご依頼くださいますよう、お願いいたします。
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この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)