解決事例
- 2026.10.06
- 被相続人が所有不動産を売却した後、長男がその売却代金を生前贈与されたとして、相続開始後に二男が行った遺留分侵害額請求が認められた事例

まとめ

事案
相談者は被相続人の二男にあたる方です。被相続人は母親で、共同相続人には兄である長男がおります。大阪府松原市に実家である母親名義の不動産があったところ、母親が老人ホームに入居することとなったため、母親、長男、二男の三人の間で売却しようという話があがりました。長男が主導して売却手続きを進めていたところ、ある日突然、長男が二男の職場まで訪れ、「この書類にサインしてくれないと手続きを進められないから、早くしてほしい。」と言われ、二男は言われるがままその書類(以下、「本件合意書」といいます)にサインをしたそうです。
本件合意書は、行政書士が作成したようであり、内容として、①実家不動産の売却代金について、長男が母親から生前贈与を受けること、②その贈与は、特別受益ではなく寄与分の前払いとしての性質を持つため、遺産分割における持ち戻しの対象とはならないこと、③長男が母親のこれからの療養看護等を行っていくこと、などが記載されておりました。作成日は令和6年3月でした。
しかし、実際には、本件合意書作成の直後に母親が老人ホームに入居したため、長男として母親の療養看護等を行った形跡はありませんでした。その後、母親が令和8年3月に亡くなられました。不動産の売却代金を除けば、その他に母親にめぼしい財産はなかったようです。
このような状況のもと、二男が当事務所を訪れ、長男に対して遺産分割や遺留分といった権利を主張することができないかとご相談に来られたのが本件です。
当事務所の解決方針
特別受益と評価できる生前贈与がある場合、原則として相続開始前10年以内に行われたものであれば遺留分侵害額請求の対象となります。
一方、本件合意書には、母親から長男に対する不動産の売却代金の贈与が特別受益でないことを確認するような内容が記載されておりました。
かかる合意が有効となるのかどうかが争点となります。しかし、特別受益という論点は、遺産分割協議において問題となり得るものです。被相続人の存命中に相続人間で遺産分割協議をしたとしても、その効力は否定されると考えられております。それと同様に、被相続人の存命中において、被相続人から相続人に対する生前贈与が特別受益に該当しないとの内容について相続人間で合意したとしても、その合意は無効ではないかと考えられました。
そこで、本件合意書における合意は無効であること、不動産の売却代金の生前贈与が特別受益に該当するため遺留分侵害額請求の対象となることを記載した内容証明郵便により、遺留分侵害額請求の意思表示を相手方に通知することにしました。また、二男は、実家不動産がいくらで売却されたのか一切知らされていなかったため、売却代金がいくらであったのかを開示して欲しいといった内容も記載しました。
そうしたところ、長男側にも代理人弁護士が就任し、その弁護士を通じて、実家不動産の売買契約書等の書類の開示を受け、実際の売却代金が1600万円であること、また、そこから仲介手数料等の売却に要した費用を控除すると1400万円であることが判明しました。そこで、交渉の結果、この1400万円を基準に二男の遺留分4分の1に相当する金額から早期解決を踏まえて若干調整した金額をもって合意することに成功しました。
本件に関するコメント
相手方から書類に署名と押印を求められて内容をしっかりと確認できないまま、つい署名押印に応じてしまったというケースは珍しくないと思われます。また、あとで見返してみるとこちら側にかなり不利益な内容が記載されていたといったケースもあり得ます。
署名押印してしまった以上、後になってその内容について争うことが難しい場合は多いと言わざるを得ません。しかし、本件のように、法律的に効力がないと主張できる余地があるものもあります。署名押印してしまった以上無理だとあきらめてしまう前に一度弁護士にご相談いただくことを強くお勧めいたします。
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この記事の執筆者

入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)




























