解決事例
- 2020.09.04
- 相続開始を知ってから3ヶ月経過後に相続債務があることを知った場合であっても、相続放棄が認められた事例
事案
依頼者の両親は、相続人が幼い頃に離婚しました。以後、依頼者は父親のもとで育てられ、母親との連絡が途絶えていました。
平成22年に依頼者の母親が亡くなりました。依頼者はその際、母親が亡くなったことは知らされましたが、母親に財産や債務があるのかについては何も知らされなかったため、相続放棄等の相続手続を採ることはありませんでした。
ところが、亡くなった母親は自宅を所有しており、住宅ローン債務も抱えていたようで、借入先の銀行から相続人である依頼者宛てに、平成28年頃から
自宅の競売手続に関する書類が届くようになりました。
法律の素人である依頼者にとっては、それらが何の書類であるか理解できず、放っておいたところ、平成29年になって、銀行から相続した債務を支払うよう通知書が届いたことから、慌てて相談に来られたのが本件です。
解決方針
相続放棄の申述は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内にする必要があります(民法915条1項本文)。
この規定を文字通り読めば、本件の依頼者は母親が亡くなり、自分に相続が発生したのを、平成22年頃には知っていたことになりますので、相続放棄は認められないことになります。
ただし、この規定をそのまま適用すると、例えば相続開始から3ヶ月経過後に多額の債務のあることが判明したような場合、相続人に酷になるケースがあることから、起算点を遅らせることを認める取り扱いが判例上認められてきました。
例えば、最高裁昭和59年4月27日判決(判例時報1116巻29頁)は、3ヶ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信じるについて相当な理由があると認められるときには、認識しうべき時から起算するのが相当である旨、判示しています。
この判例は、熟慮期間の起算点を相続人が被相続人に相続財産が全くないと信じた場合に限り遅らせることができるという限定説を採っていると考えられますので、相続人が積極財産のみを知っており、後に負債など消極財産の存在が明らかになった場合には起算点を遅らせることはできないことになりそうです。
しかし、実務上、下級審裁判例では、上記最高裁の考え方よりさらに柔軟に捉え、相続放棄をより広く受理する傾向にあります。
本事案においても、銀行から依頼者に対して、平成28年頃から、母親の所有していた自宅の競売手続に関する書類が届いていたことからすれば、この時点において、母親に何らかの積極であれ消極であれ何らかの相続財産があることを認識することができたとして、相続放棄が認められない可能性もありましたが、母親の債務の存在を確定的に知ったのは、平成29年になって、銀行から依頼者が相続した債務を支払うよう求める通知書が届いてからであることを主張しました。
その結果、家庭裁判所において、依頼者の相続放棄の申述が認められるに至ったのです。
コメント
上述のとおり、家庭裁判所は民法915条の規定から離れて、かなり柔軟に相続放棄の申述を受理する傾向にあります。最初から諦めずに、まずは相続分野に精通した弁護士に相談することをお勧めいたします。
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この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)