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解決事例

2021.02.26
自筆証書遺言の無効確認訴訟を提起し、勝訴した事例

事案

亡くなられたお母様(被相続人)には、長男(依頼者)と二男の2人の相続人がいました。被相続人は夫が亡くなった後も自宅マンションに一人で暮らしており、主に長男夫婦がマンションを訪れ、被相続人の世話をする状態が続いていましたが、ある日、心不全で急に亡くなられたとのことでした。

被相続人の葬儀を終えた後,長男が1人、被相続人の自宅マンションで遺品整理をしていたところ,リビングに置かれた書類の中から,被相続人の筆跡で書かれた遺言書のような書面が,クリアファイルに入れられているのを発見しました。その書面には、長男に100万円を相続させる以外,自宅マンションを含む一切の財産を二男に相続させると書かれていましたが、押印はありませんでした。長男は,生前に母から遺言書の話など聞いたことがなかったため、このような書面の存在に大変驚き,念のため,スマートフォンで写真撮影して保存しておきました。

そのようなことがあってから数日後,撮影された上記書面と全く同じ筆跡の書面に,押印された状態のものが二男から提示されました。二男からは、被相続人の遺志に従い、この通りに遺産を分けるべきだと主張してきたのです。そこで、長男から当事務所に、どう対処すればいいか相談に来られたのが本事案になります。

解決方針

二男が被相続人の自筆証書遺言だと主張している書面は、被相続人の生前には押印がされておらず、遺言の様式を欠いていることから無効になります。そこで、解決方針として、上記自筆証書遺言の無効を徹底的に争うこととしました。

この点,相手方にあたる二男は,同遺言書の検認手続きにおいて,この遺言書が有効であることを頑なに主張していましたので,交渉の余地はないと判断し,法的手続きによって明らかにすることにしました。

遺言無効確認は,法律上,訴訟より先に調停を行うこととされていることから,まずは調停を行いましたが,相手方が出席しなかったため不調となり,速やかに遺言無効確認訴訟を提起しました。

訴訟の中で,長男が葬式後に被相続人の自宅で撮影していた押印のない書面の写真を証拠として提出しました。また、二男が自筆証書遺言だと主張する書面が発見されるに至る経緯や発見された場所について、二男の言い分が二転三転したことから、当事者尋問において、二男の供述の変遷や矛盾点を徹底的に追求しました。その結果、裁判所において,遺言書の無効を確認する旨の判決が下されるに至りました。

これにより,遺言が無効であることを前提として,長男、二男が2分の1ずつの割合で,遺産分割協議を進めることとなりました。

事務所コメント

自筆証書遺言は,遺言者本人が、その全文、日付及び氏名を自書し、押印しなければ、その効力が認められません(本事案当時の民法968条1項)。遺言無効確認の訴えは、作成当時における遺言能力の有無が争われることが圧倒的に多いのですが、本事案は押印を欠いていたか否かが争いとなった珍しい事案と言えます。

押印がない状態で本人が亡くなったとしても、後日、相続人などが押印してしまうと、有効な遺言書であるかのような外形が整ってしまいます。

本事案では,依頼者が、押印のない書面を発見した時点においてスマートフォンで撮影した写真データが決定的な証拠となり,勝訴を勝ち取ることができましたが、逆にいえば、この写真データがなければ、押印がなかったことの立証は極めて困難であったことが予想されます。依頼者のちょっとした機転の有無が結果を大きく左右する好例と言えるでしょう。

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この記事の執筆者

入江・置田法律事務所

弁護士・税理士・家族信託専門士

置田浩之(おきた ひろゆき)

専門分野

相続、相続税、家族信託、企業法務

経歴

東京大学大学院法学政治研究科卒業後、東京都内の大手銀行に勤務。その後、大阪大学法科大学院に入学。司法試験合格後、平成22年1月に弁護士登録、大阪府内の法律事務所勤務を開始。平成27年12月、大阪・阿倍野に弁護士の入江貴之とともに事務所を開設。また、平成24年に税理士登録、相続財産問題や相続税対策などにも幅広く対応している。 相続問題の相談実績は年100件を超える。豊富な法律相談経験により、依頼者への親身な対応が非常に評判となっている。
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