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解決事例

2021.04.01
「すべての遺産を長女に相続させる」旨の遺言書を作成した事例

事案

当事務所に遺言書作成の相談に来られたのは、以前に、亡くなったお父様(被相続人)の遺産分割協議と相続税申告の依頼を当事務所にされた、被相続人の長女さんでした。長女の話によれば、父の相続の際には遺言書が無かったため、相続人間で揉めていたら大変なことになっていた、母は私が一緒に住んで世話をしており、最後まで面倒を看るつもりでいるので、母の財産は私がすべて相続することにしたい、母も私に全財産を相続させる遺言書を作ることで納得してもらっているとのことでした。

そこで、後日、相談者の母親ご本人に事務所にお越しいただき、詳しくお話を聞きました。お母様は80歳と高齢で、認知症もやや進行している様子が見て取れましたが、他方で、長女には大変献身的に世話をしてもらっているので、財産をすべて長女にあげたいという意思ははっきりと示されました。

解決方針

一般的に、すべての遺産を特定の相続人に相続させるとする遺言書を作成してしまうと、他の相続人の遺留分を侵害することになり、相続開始後、紛争に発展する火種になってしまうことから、当事務所では、他の相続人の遺留分にも配慮した遺言書を作成するよう指導することにしています。

しかしながら、本件においては、べての財産を長女に相続させたいとのご本人の意思が明確でありました。

また、かつては、相続開始後、他の相続人から遺留分減殺請求がなされると、遺産すべてについて各相続人の遺留分減殺率に応じた共有持分が生じることとなり、特に不動産や自社株が遺産に含まれる場合、遺贈を受けた多数持分権者と遺留分を請求する少数持分権者との間の紛争が複雑化する大きな要因となっていましたが、相続法改正に伴い、令和元年7月1日以降に相続が発生した場合、遺留分制度について、遺留分侵害額請求という金銭請求に一本化されることとなりました。

本件では、遺言書を作成されるお母様にはご自宅以外に、夫から生前贈与を受けたり相続により取得した多額の預貯金があったことから、遺言によりお母様の遺産を相続した依頼者は、他の相続人から遺留分侵害額を支払うよう請求されても支払えるだけの十分な資金的余裕が見込まれました。

以上のような総合的判断のもと、お母様のご意向に従い、最寄りの公証役場にて、すべての遺産を長女に相続させる旨の公正証書遺言を作成することとなりました。

なお、遺産に含まれる預貯金について、上記のように、特定の相続人に相続させる旨の遺言書が遺されていたとしても、金融機関によっては、当該遺言書だけでは被相続人の預貯金の解約に応じず、相続人全員の同意を求める対応をしている所もあります。

事務所コメント

このような、遺言書を作成した意義を没却させる、金融機関の不合理な対応にも困らないよう、預貯金の解約を伴う遺言書を作成する際には、必ず遺言執行者を選任する旨の条項を入れておくべきといえます。上記のケースにおいても、当事務所所属の弁護士を遺言執行者とする条項を入れておくこととしました。

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この記事の執筆者

入江・置田法律事務所

弁護士・税理士・家族信託専門士

置田浩之(おきた ひろゆき)

専門分野

相続、相続税、家族信託、企業法務

経歴

東京大学大学院法学政治研究科卒業後、東京都内の大手銀行に勤務。その後、大阪大学法科大学院に入学。司法試験合格後、平成22年1月に弁護士登録、大阪府内の法律事務所勤務を開始。平成27年12月、大阪・阿倍野に弁護士の入江貴之とともに事務所を開設。また、平成24年に税理士登録、相続財産問題や相続税対策などにも幅広く対応している。 相続問題の相談実績は年100件を超える。豊富な法律相談経験により、依頼者への親身な対応が非常に評判となっている。
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