解決事例
- 2023.04.29
- 連絡が繋がらない兄の住所を調査した上で遺産分割調停を申立て、調停成立に成功した事例
事案
相談者は、2人兄弟の弟です。20年以上前にお母様は既に亡くなられており、昨年にお父様(被相続人)が亡くなられました。
2人兄弟の兄とは、お母様が亡くなってから一切連絡を取っていなかったため、連絡のしようがないと途方に暮れていたところ、税務署から相続税の支払について通知がありました。相談者から、兄とは連絡が一切取れないことを伝えていたところ、税務署側が独自に兄と連絡を採ったようで、兄は、「相続に一切関わりたくない、全て遺産は弟(相談者)に挙げる代わりに相続税も負担して欲しい」と言っているとのことでした。
そこで、税務署主導で、相談者が全て相続する代わりに相続税を支払うという内容の合意書面を作成し、相談者が相続税を全額支払いました。
その後、相談者は、被相続人の預貯金の解約手続き等を行おうとしましたが、金融機関側からは、税務署作成の合意書面では手続ができないこと、改めて兄と正式な遺産分割協議書が必要であることなどを言われました。
相談者としては、兄の連絡先を一切知らなかったので、どうすればいいかとのことで当事務所までご相談に来られたのが、本件になります。
解決方針
税務署主導で作成した合意書面は、「相談者が被相続人の遺産を全て相続する代わりに相続税を支払う。」といった内容が記載されている2枚の書面であり、1枚に相談者自身の署名押印、もう1枚に兄の署名押印がなされているだけのものでした。
遺産分割協議書には、1つの書面に相続人全員が署名押印するのが通常です。また、その押印が本人によって行われたことを証明するために、実印の押捺と印鑑証明書の添付が必要となります。
本件では、そのいずれもが欠けておりました。
そこで、相続人間で改めて遺産分割協議書を正式に作成するため、まず、兄の戸籍及び戸籍の附票を取り寄せ、住民票上の住所を調べました。直近の住民票上の住所地は、大阪府内のとある賃貸マンションの1室でした。そこで、次に、その住所宛に内容証明郵便を送付しましたが、保管期間満了により返送されるばかりでした。併せて、本当にそこに兄が居住しているかを確認するために、そのマンションの管理会社に対し、兄が居住しているのか、それとも賃貸借契約が解除されて別の賃借人が住まわれているのかを調べました。そうしたところ、その管理会社から、賃借人が兄のまま変更はなされていないとの回答を得ました。
そこで、これら調査結果を踏まえ、兄を相手方とする遺産分割調停を申し立てました。遺産分割調停を申し立てても、相手方が出廷しない可能性もあります。ただ、本件では、相手方である兄が被相続人の遺産を全て相談者が相続することを認めていましたし、遺産分割協議書としては不十分ですが、そのことを示す合意書面もありました。そのため、相手方が出廷しなかったとしても、裁判所が調停に代わる審判手続(家事事件手続法284条)を採ってくれるとの見通しでした。
ところが、何度連絡しても返答のなかった兄が遺産分割調停の第1回目の期日に出廷してきました。そのため、その期日で、全ての遺産を相談者が相続するとの内容の遺産分割調停が無事に成立しました。
当事務所コメント
当事者どうしで遺産の処遇について決めた文書を作成したとしても、その文書をもって、例えば、被相続人名義の不動産の登記名義の変更ができるのかどうか、被相続人名義の預貯金口座の解約手続きができるのかどうかは、別の問題です。
「遺産分割協議書」を相続人間で作成する場合は、後々の手続のことも考えて、その内容を精査した上で作成しなければなりません。相続人間で争いがなかったとしても、遺産分割協議書の作成手続だけでも弁護士に相談するという選択肢は残していただければと思います。
また、本件では、他の相続人と連絡の取りようがないという事情もあります。遺産分割協議を行うための一環として、弁護士は、戸籍の取寄せ・調査ができます。さらに、戸籍や戸籍の附票だけではない調査として、賃貸マンションの管理会社への問い合わせ等の調査を行うこともできます。連絡がとれないからといって放置し続けてしまうというのも得策ではございません。連絡を繋ぐ窓口係としてもどうぞ弁護士をご活用ください。
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この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)