解決事例
- 2023.07.05
- 韓国籍の被相続人に関する遺産分割調停を申立て、早期に調停を成立させた事例
事案
亡くなられたお母様(被相続人)には、長男、長女及び二女の3名の相続人がおりました。なお、お父様は5年前に既に亡くなられておりましたが、お父様の遺産分割協議はなされていないままでした。
被相続人の遺産には、実家の土地及び建物と預貯金がありました。預貯金の通帳等は長女が預かっておりました。そこで、被相続人の死後、長男が長女に遺産の内容を確認したところ、長女から知らされた被相続人の預金口座の残高が予想していたよりもあまりにも少ないことがわかりました。疑問に思った長男が預金口座の取引履歴を取り寄せたところ、被相続人が亡くなる2~3年前から、合計3000万円近くのお金が預金口座から不自然に出金されていることが判明しました。
長男が長女に対して上記の出金(使途不明金)について追及したものの、長女からは知らぬ存ぜぬで何ら回答が得られず、遺産分割協議が全く進行できない状態となってしまいました。そこで、使途不明金の追及と遺産分割協議について、長男からご依頼いただいたのが本事案です。
なお、長男らの父母はいずれも韓国籍の方であり、長女、二女らも韓国籍でしたが、依頼者である長男だけは日本に帰化していました。
解決方針
まずは、長男の代理人として、長女及び二女に対し、代理人に就任したことを伝えるとともに、合計3000万円の出金について、誰が出金したものであり、使途が何であるかを明らかにするように求めました。
そうしたところ、長女及び二女にも代理人が就任したことを知らせる書面が届きました。その主張内容は、被相続人が亡くなった以降の出金は長女自らが行ったことを認めたものの、それ以前の出金について、長女や二女は何ら関与していないといったものでした。
そこで、長男を申立人として大阪家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて、遺産分割と併せて上記の使途不明金についても追及することとしました。
通常、遺産分割調停を申し立てる際に、被相続人の出生から死亡までの戸籍関係書類を全て取寄せた上で、各相続人の現在戸籍とともに、裁判所に提出する必要があります。被相続人が日本国籍の方であれば、その戸籍関係書類は弁護士の立場から職務上請求という方法で取寄せることが可能です。ところが、被相続人が韓国籍であった場合は、韓国の戸籍を用意する必要があります。また、韓国の戸籍は、当然韓国語で記載されておりますので、裁判所に提出するにあたっては、その日本語訳も併せて提出しなければなりません。
そこで、依頼者のご協力のもと、大韓民国総領事館を通じて韓国の戸籍を取寄せた上で、それを日本語に訳した翻訳文も取得しました。
また、被相続人が韓国籍の場合、その相続についてはその本国法たる韓国法が適用されることになります(法の適用に関する通則法36条)。韓国民法では、日本法と異なり、配偶者と直系卑属が共同で相続するときは、配偶者の相続分は直径卑属の相続分の5割を加算するとされています(韓国民法1009条2項)。それによれば、既に亡くなられたお父様の相続は、お母様である被相続人:長男:長女:次女が3:2:2:2となります。もっとも、本件の場合、お父様の遺産分割が未了のまま、お母様が亡くなったことから、お父様の相続におけるお母様の法定相続分は、それぞれ長男、長女及び次女が同じ割合で相続することになります。そのため、結果として、お父様の相続もお母様の相続のいずれについても、法定相続分は、日本法と同じく、長男、長女及び次女が1:1:1となります。
調停手続きにおいて、使途不明金についても追及しました。もっとも、相続人の1人による生前の被相続人の預金口座からの出金は、不当利得返還請求権を構成し、遺産ではありませんので、遺産分割調停の審理対象とはなりません。相手方も、調停での話合いには応じないとの姿勢だったため、使途不明金の請求は別途訴訟で行うこととなりました。
以上のような経緯の下、被相続人名義の不動産及び死亡時の預貯金について相続人間で協議を進め、結果として、使途不明金の件を除く形ではありますが、遺産分割調停を比較的早期にまとめることができました。
当事務所コメント
被相続人が韓国籍の方の場合、日本国籍の場合と異なり、裁判所に提出しなければならない戸籍関係の収集に時間・労力がかかることになります。戸籍関係書類が揃わなければ、それ以上の手続きを進めることができません。本件の場合、幸いにも依頼者のご協力もあって戸籍関係書類を円滑に取得することができました。
また、韓国法が適用されることによって、法定相続分の割合が日本法の場合と異なることもあり得ます。本件の場合は、結果として、日本法の場合と法定相続分が同じでしたが、被相続人が韓国籍の方の場合に遺産分割協議を行うにあたっては、是非とも事前に相続専門の弁護士にご相談いただければと思います。
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この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)