FAQs
- 2022.01.12
- 被相続人所有の建物を相続人の1人が無償使用している場合、無償使用による利益は特別受益に該当しますか。
Q 被相続人Aが亡くなりました。相続人は、長男Xと二男Yの2人です。
YはAの生前から、A宅でAと同居し、Aの面倒を看てきた。Xは、YがA宅に同居していたことが特別受益に該当するとして、その持戻しを請求できるか。
A 遺産である被相続人の実家建物に相続人の1人が同居し、特に賃料等を支払っていなかった場合、当該居住の利益(占有権限)は使用貸借契約に基づくものであるとして、使用借権相当額が特別受益に該当するか否かが争われることが実務上あります。
しかしながら、被相続人方に同居していたような場合、当該相続人は、実家建物の占有において単なる占有補助者に過ぎず、独立の占有権限が認められないことから、そもそも使用貸借は成立しないものといえます。
また、当該同居が被相続人の希望によってなされていた場合や、同居をした上で相続人が被相続人の面倒を看ていた場合には、相続人が一方的に利益を得ていたという関係にも当たりません。
さらに、被相続人の財産状況に鑑みても、そもそも被相続人の財産には何らの減少もなく、遺産の前渡しがなされたという状況に当たりません。
したがって、YがA宅にて無償で同居していたのだとしても、その利用利益は特別受益には該当しません。
弁護士の解説
以上のとおり、被相続人所有の建物に相続人の1人が同居していた場合、その使用利益は特別受益に該当しません。
これに対して、被相続人の建物に相続人の1人が単独で居住していた場合、当該相続人に独立の占有が認められるので、使用貸借契約の成立を認めることができます。
この場合、建物の使用貸借につき特別受益の成立を認める余地があるように思われますが、実務においては、特別受益に該当しないと考えられる場合が多いようです。その理由としては、①建物の使用貸借は、恩恵的要素が強く、遺産の前渡しとは考え難いこと、②建物の使用貸借は、土地と比較すると、明渡しが容易であり、経済的価値もないに等しいこと、③賃料相当額自体を合計すると相当多額になってしまい、遺産の総額と比べても過大となってしまうこと、などが考えられます。
他方、相続人が無償で居住していた建物が被相続人所有の収益物件で、本来賃貸しているものであった場合には、相続人の当該居住によって、被相続人には本来得られるはずであった賃料収入を得られなかったという事情が認められるため、賃料相当額が特別受益になり得るとも考えられます。
しかしながら、この場合にも、例えば、当該相続人がマンションの管理等を担っていたような場合、相続人の居住と管理との間に対価的関係が認められるため、被相続人による持戻免除の黙示の意思表示があったものと認定され、持戻しの対象とはなりません(新潟家審昭55・5・27家月34・3・34、大阪家審平6・11・2家月48・5・75)。
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この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)