解決事例
- 2021.09.24
- すべての遺産を特定の相続人らに相続させる旨の遺言に対して、他の相続人から遺留分減殺請求をされたが,価額弁償として、金銭の支払いだけでなく不動産の代物弁済や貸付金の債権譲渡により和解を成立させた事例
事案
地方のとある有名な観光都市で老舗ホテルを経営されていた相談者らのお父様(以下では「被相続人」と言います)が亡くなられました。その相続人は,長男,長女及び二男の3人でした。
被相続人は,かつては長男と一緒にホテル事業を営んでいたのですが,ある時、長男とが仲違いをしたようで,それ以来,長男はホテル事業からは一切関わりを絶ち,被相続人の下を去ってしまったため,やむなく,二男とその家族が被相続人のホテル事業を全面的に手伝うことになりました。
被相続人は,ホテル事業用に用いていた不動産に加えて、ホテルが所在する都市周辺に倉庫や店舗,アパート,長男の自宅敷地となっている土地など多数の不動産を所有しており,その合計額は約1億5000万円でした。被相続人の他の財産としては,預金その他の金融資産が約5000万円あったのと,事業を営む親戚に対する貸付金が約1億円あったため,遺産合計は約3億円に上りました。
被相続人が亡くなられた後,長女と二男とは,被相続人が生前に遺言公正証書を作成していたことを初めて知りましたが,その内容は,すべての遺産について,長女と二男に2分の1ずつ相続させるというものでした。
その後,遺言書の内容を知った長男が,遺留分減殺請求をしてきたため,長女と二男とがその対応を当事務所にご依頼されたのが本事案となります。
解決方針
遺留分減殺請求(令和元年7月1日以降に相続が開始された場合は「遺留分侵害額請求」といいますが,被相続人が亡くなられたのはそれ以前でした。)を受けた場合,遺産の内容を確認した上で,遺留分侵害額を算定する必要があります。遺産のうち,預金その他の金融資産が多くを占める場合,遺留分減殺請求を行った者に対し,遺留分侵害額に応じた金員を支払えば足りるため,円滑に手続を進めやすいです。これに対して,不動産やその他の資産が多くを占める場合は,遺留分減殺請求を行った者に対し,金銭の支払いだけで調整することができず,不動産やその他の資産を譲渡することで調整するか,不動産の売却代金を支払うことで調整するか,その場合,対象とする不動産をどれにするかなど,多くの検討を要することとなります。
本件では,長男が遺留分減殺請求訴訟を提起しましたが,長男の遺留分侵害額は5000万円にのぼる(3億円×1/6)一方で,金融資産が5000万円しかなく,しかも長女と二男は相続に伴い多額の相続税を負担していたため,金融資産からの支払いだけでは遺留分侵害額に全く届きませんでした。
そのため,長男の希望と相談者らの希望をすり合わせた上で,長男が居住している自宅敷地となっている土地と,倉庫となっている土地一ヶ所とを,遺留分侵害額の価額弁償に関する代物弁済として,長男が取得する方向で話がまとまりました。
ただし,不動産の代物弁済を加えてもなお,長男の遺留分侵害額に及びませんでしたので,不足部分については,被相続人の親戚に対する貸付金の一部を相談者らが長男に債権譲渡を行うことを提案しました。長男側代理人は当初は難色を示していたものの,遺産全体に占める貸付金債権の割合が3分の1に上ることや,貸付金債権の返済期間が今後10年以上に渡ることとなっており,遺留分減殺請求する立場の長男も,相談者らとともに貸付金債権の回収リスクを背負うべきことを粘り強く説得することで,最終的に和解成立にまで漕ぎつけることができました。
事務所コメント
遺言書を作成することは生前対策として非常に重要といえます。ただ,遺言書で遺産を相続させるべき相続人を指定する場合,遺留分を侵害しないかどうかも併せて検討する必要があります。
本件は,被相続人が生前に公正証書遺言を作成されていましたが,相談者らに対してのみ相続させるとの内容であったため,長男による遺留分減殺請求事件として紛争化してしまいました。
被相続人の遺言書により遺産を相続した場合,その内容が他の相続人の遺留分を侵害している可能性がある場合は,預貯金等を保管して,他の相続人からの遺留分減殺請求(遺留分侵害額請求)に備えておいた方が良いでしょう。また,他の相続人の遺留分侵害額に応じた遺産の分配を行う場合は,不動産や預貯金などの様々な遺産のある中でどれをどのように分配するかを検討する必要があります。不動産での調整が困難であり,かつ,預貯金だけでは遺留分侵害額に不足する場合は,請求を受けた相続人が自ら自己資金の持ち出しや借入れを行わなければならない事態にもなりかねません。
本件の場合は,被相続人が生前に親戚に貸付を行っており,きちんと貸付金の管理をされていたことから,その一部を債権譲渡という方法によって長男の遺留分侵害の価額弁償に充てる形で調整できたため,相談者らが自らの持ち出しで長男に支払うといった事態を回避することができました。
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この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)