FAQs
- 2022.01.12
- 遺産分割において、不動産の建築資金・購入資金等に係る借入金はどのように取り扱われるのでしょうか?
Q 父が先般亡くなりました。相続人は、兄のY(長男)と私(X)の2人です。
父は不動産賃貸業を営んでおり、多くの賃貸マンション・アパートを所有していましたが、銀行から借入れをして購入してきたため、父の所有不動産にはすべて銀行の抵当権が設定されています。
私は、父の債務を相続するのはできるだけ避けたいと考えており、兄が債務をすべて承継するのであれば、兄が父の不動産をすべて相続しても構わないと考えています。私と兄とは、どのように遺産分割を進めていけばいいでしょうか。
A 銀行からの借入金のような金銭債務は可分債務であり、相続に伴い、各相続人がその法定相続分に応じて当然に分割して承継することになります。本件では、お父様の相続開始に伴い、銀行からの借入金債務は、XとYとが2分の1ずつ、当然分割により承継することになります。
そのため、仮にXY間の協議により、Yが、お父様のすべての遺産を取得する代わりにすべての債務を承継するとの合意をしたとしても、Xは、債権者である銀行から、金銭債務のうち法定相続分である2分の1の弁済を求められた際、Yとの合意を主張してこれを拒むことはできません。
そこで、Yが収益不動産をすべて相続する代わりに金銭債務についてもすべて承継するといった内容の遺産分割協議をしたい場合には、X、Yと銀行との三者間において、事前に折衝し、金銭債務のうちXが承継する2分の1について、Yが引き受けることについて銀行の承諾を得ておく必要があります。これを免責的債務引受と言います。
弁護士の解説
遺産の中に収益不動産の借入金のような金銭債務が含まれている場合、相続人であるXとYとの間だけで債務の負担割合を決めることはできず、債権者の承諾が必要となります。その意味で、免責的債務引受けが認められるか否かは、債権者の判断次第ということになります。
これに対して、「全財産と全債務をXに相続させる」との遺言を被相続人が作成していた場合、被相続人の債務はどのような取扱いになるでしょうか。最判平成21年3月24日(判時2041巻45頁)は、このような遺言がある場合であっても、「遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから、相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、各相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには、これに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。」として、遺言による指定も、相続人間では有効であるが、債権者に対して対抗できないと判示しました。
もっとも、実務上は、抵当権が設定されている不動産を取得する相続人が債務も承継することについて、ほとんどの場合、債権者は承諾するものと考えられますが、相続人間の合意のみで、あるいは遺言のみで債務の承継者を指定することはできないという点は留意が必要といえます。
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この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)