解決事例
- 2020.09.04
- 名義預金の帰属が争われた事例
事案
依頼者は大阪市内に住む男性の方でしたが、 ある日、久しぶりに故郷の実家に帰省した際、 父(被相続人)の死亡の事実を初めて知り、その際、父の部屋に保管してあったはずの依頼者名義の定期預金口座(残高1000万円)の通帳と届出印が無くなっているのに気付いたそうです。 |
依頼者は慌てて金融機関の窓口に行き、紛失届を出そうとしたところ、依頼者の兄が依頼者からの委任状を使って、すでに上記預金口座からお金を引き出していたことが発覚しました(もちろん、依頼者は兄に預金引き出しの委任をした覚えはありません)。
そこで、当事務所が依頼者の代理人として、相手方(兄)に対して、引き出した預金の返還を求めたところ、相手方からは、上記預金口座は名義が弟になっているだけで、亡くなった父が原資を出損し、通帳と印鑑も父が保管していたものだから、実質は父の預金である、自分は生前に入院中の父から、上記の定期預金口座を解約して父の入院代や父が亡くなった後の葬儀代などに充てるようにと依頼を受けて預金を引き出したに過ぎないのだから、依頼者に預金を返還する必要はないとの回答が返ってきました。
解決方針
当初、当事者間での示談交渉を試みましたが、相手方からは、「父の遺産相続について依頼者が相続分を主張しないこと、父が代表を務めていた会社に対する依頼者の貸付金を放棄することを条件として、解決金を支払う」との提案がなされました。
依頼者としては、父の遺産の全容や、父が代表を務めていた会社の情報を開示しないまま遺産相続の放棄や会社に対する貸付金の放棄を迫る相手方の提案に応じることは到底納得がいかず、預金の返還について民事訴訟を提起することとしました(父の遺産相続や父が代表を務める会社に対する貸付金の返還については、本訴訟が確定した後、別途争う方針としました)。
上記預金口座が依頼者のものか亡くなった父のものかを巡り、裁判では双方の主張立証が激しく対立し、訴え提起から判決が出るまで約2年の歳月を要しましたが、預金口座開設当時の依頼者の経済状況が困窮していたことや、上記預金口座開設の1ヶ月ほど前の時期に依頼者の父の口座から合計約1000万円が複数回に分けて引き出されていたことが一つの決め手となって、1審は依頼者側敗訴の結果に終わりました。
1審の結果を受けて、控訴審でこれ以上争うとなると、その後に父の遺産相続を巡る遺産分割調停や父が代表を務める会社に対する貸付金の返還請求も控えていることから、紛争がさらに長期化することが避けられません。
また、仮に上記の提起預金1000万円が父のものであったとすると、これも父の遺産であったことになり、上記預金も遺産分割協議の対象になります。
そこで、控訴審では、依頼者側のこれまでの方針を変更し、相手方が父の遺産や会社の財務に関する情報の開示に応じることを条件に、父の遺産分割協議や会社に対する貸付金を含めた形での本事案に関する和解協議を進めていく提案をしました。
相手方もこれ以上の紛争の泥沼化を避けたかったのか、情報開示に積極的に応じた結果、父の遺産として他にめぼしい資産が存在しないこと、父が代表を務めていた会社が、父の生前に代表権を兄に移しており、会社の解散決議がなされていたことなどが判明しました。
以上のことから、控訴審において、依頼者と相手方との間に、依頼者が父の遺産分割協議や会社に対する貸付金の返還は求めないこと等を条件に、相手方が解決金1200万円を支払う内容での和解が成立しました。
大阪の相続・遺言・相続税に強い 入江置田法律事務所の解決事例
※2020年5月28日更新
こんなお悩みありませんか?
相続相談解決事例
相続の争点
この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)