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解決事例

2020.09.04
遺言書と異なる内容で遺産分割協議をした事例

事案

依頼者には長女、二女、長男の3人の子どもがおり、自分が死んだ後に相続争いにならないようにとの思いで、当事務所に公正証書遺言の作成を依頼されました。

遺言書は、「土地①と建物①は長女に、土地②と建物②は二女に、土地③④と建物③④は長男に相続させる。預貯金は長女及び二女に各1/2ずつ相続させる」との内容でした。

ところが、依頼者が死亡し、遺言書の存在を知った長女が、「土地①と建物①は二女に全部譲るので、自分は預貯金を全部欲しい」と言い出し、二女もそれを了承する意向でした。
長男は自分の相続には直接影響はないものの、父の遺言書の記載通りに相続すべきではないかと考えているようでした。

以上のような場合に、遺言書と異なる内容で遺産分割協議をすることの可否について相続人らから相談を受けたのが本件事案です。

解決策

「相続させる」旨の遺言がなされたときには、判例によれば、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情がない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は遺言者の死亡時に直ちに相続により承継されるものと解されています。

したがって、「相続させる」旨の遺言がなされた場合、それと異なる内容の遺産分割協議をすることができるかが問題となります。

この点、特定遺贈の場合、特定受遺者は、遺言者の死亡後いつでも遺贈の放棄をすることができる旨の定めがありますが(民法986条1項)、「相続させる」旨の遺言の場合も、特定遺贈の場合と同様、当該遺産を取得する地位を当該相続人の意思と無関係に強制すべきではないと考えられますので、相続人全員が遺言内容と異なる内容の遺産分割を成立させる意思を有している場合には、遺言内容と異なる内容の遺産分割はできるものと考えられます。

したがって、上記事案においても、長女から提案された遺産分割の内容で二女、長男とも合意できるのであれば、亡くなられた依頼者の遺言の内容と異なる遺産分割協議書を作成することも可能と考えられます。

長男は当初、遺言書の内容通りに相続すべきではないかと考えていましたが、長女、二女の意向をくむ形で、最終的には長女の提案する遺産分割案で合意するに至りました。

なお、遺言内容と異なる遺産分割協議書を作成する際の留意点として、仮に遺言の存在を知らない相続人が一人でもおり、その者が遺言の存在や内容を知っていたならば遺産分割協議の内容に同意しなかったであろうと認められる場合には、錯誤による意思表示として、遺産分割協議書が無効になることから、遺産分割協議書の中に、遺言の存在とその内容を明記したうえ、相続人全員の総意でその内容と異なる遺産分割を行う旨を明らかにしておいたほうがいいと考えられます(本件では、長女、二女、長男とも遺言の存在を認識していることは明らかでしたので、あえて明記しませんでした)。

また、本件では「相続させる」旨の遺言でしたので、遺言執行者は選任されませんでしたが、遺言執行者がいる場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をしてはならないとされており、判例はこの規定に違反した行為は絶対的に無効だとしていることから、遺言執行者の同意を得ておく必要が生じます。

大阪の相続・遺言・相続税に強い 入江置田法律事務所の解決事例

※2020年5月28日更新

No 解決事例の内容 分野
1 すべての遺産を長男に相続させる旨の遺言があった事例 遺産分割
2 遺留分減殺請求訴訟を提起された事例 遺留分
特別受益
3 被相続人と疎遠であった実の母親と異母兄弟に相続放棄を認めさせた事例 相続放棄
4 名義預金の帰属が争われた事例 その他
相続紛争
5 未払賃料の支払請求権を相続により取得した事例 その他
相続紛争
6 生命保険金の受取りが特別受益に該当するか否かが争いになった事例 特別受益
7 遺言書と異なる内容で遺産分割協議をした事例 遺産分割
8 遺留分侵害を理由に遺産分割調停を申し立てられた事例 遺留分
特別受益
9 生命保険金の受取人に指定された相続人が相続放棄をした場合の相続税申告の事例 相続税申告
10 一部分割により,小規模宅地の特例適用を可能とし,相続税の納税資金等の確保に成功した相続税申告の事例 相続税申告
11 被相続人が死亡後、相続登記が未了のまま、2次相続、3次相続が発生したため、相続人10人の共有状態となっていた不動産につき、遺産分割協議により、その解消に成功した事例 遺産分割
12 交通事故の被害により事理弁識能力を失った方の成年後見人として、遺産分割協議を行った事例 遺産分割
13 相続開始を知ってから3ヶ月経過後に相続債務があることを知った場合であっても、相続放棄が認められた事例 相続放棄
14 遺言書が無かったために、被相続人の甥・姪を含む相続人ら10名での遺産分割協議を余儀なくされた事例 遺産分割
15 遺留分に配慮した遺言書に作成し直した事例 遺言作成
16 不動産の売却、生命保険の活用、遺言書作成を組み合わせた生前対策により、相続税の大幅な節税に成功した事例 遺言
生前対策
17 海外在住の相続人が一時帰国中の1ヶ月間で相続人間の話し合いをまとめ、遺産分割協議を早期に完了させるとともに、相続税の大幅な節税にも成功した事例 遺産分割協議相続税申告
18 遺産のうち、金融資産について早期に遺産分割協議を完了させ、評価額に争いのある自宅不動産について遺産分割調停手続を活用した事例 遺産分割
19 遺産分割協議成立後に遺言書の存在が明らかとなり、遺産分割協議の錯誤無効を争った事例 その他
相続紛争
20 推定相続人である長男を廃除する旨の遺言があった事例 遺留分
その他
相続紛争
21 預金の使い込みの疑いをかけられ、損害賠償請求訴訟を提起された事例 預金の
使い込み

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この記事の執筆者

入江・置田法律事務所

弁護士・税理士・家族信託専門士

置田浩之(おきた ひろゆき)

専門分野

相続、相続税、家族信託、企業法務

経歴

東京大学大学院法学政治研究科卒業後、東京都内の大手銀行に勤務。その後、大阪大学法科大学院に入学。司法試験合格後、平成22年1月に弁護士登録、大阪府内の法律事務所勤務を開始。平成27年12月、大阪・阿倍野に弁護士の入江貴之とともに事務所を開設。また、平成24年に税理士登録、相続財産問題や相続税対策などにも幅広く対応している。 相続問題の相談実績は年100件を超える。豊富な法律相談経験により、依頼者への親身な対応が非常に評判となっている。
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