解決事例
- 2020.09.04
- 推定相続人である長男を廃除する旨の遺言があった事例
事案
依頼者は、昨年亡くなられた父親(被相続人)の1人息子でしたが、被相続人が亡くなる10年以上前から、仕事の都合でヨーロッパに海外赴任しており、被相続人とは長らく連絡をとり合っていませんでした。 被相続人は、依頼者が海外赴任してからまもなく、日本に在住する依頼者の長男夫婦と養子縁組しており、以後、被相続人が亡くなるまでの間、依頼者の長男夫婦が被相続人の世話をしてきました。 |
被相続人が亡くなってから間もなくして、依頼者の長男の代理人弁護士から依頼者の元に、文書が届きました。その内容は、被相続人が公正証書遺言を作成しており、そこには、被相続人の所有する不動産、預貯金を含む遺産の大部分を長男に、残りの遺産を長男の妻に相続させること、依頼者を廃除すること、遺言執行者に長男を指定することなどが記載されていました。
弁護士からの文書の内容に驚いた依頼者が当事務所に相談に来られたのが本件です。
解決方針
確かに、依頼者は、被相続人が亡くなる10年以上も前から現在まで海外赴任が続いていたことから、被相続人とは、海外赴任後亡くなるまで会う機会はありませんでした。 しかし、海外赴任中でも被相続人と電話でやり取りすることは何度もありましたし、依頼者の長男夫婦の長女(依頼者の孫娘)には、被相続人の身の回りの世話をするように依頼していました。したがって、依頼者が一方的に被相続人との関係を断ち切っていたわけでは全くありませんでした。 |
民法892条後段は、廃除事由として、「虐待」「重大な侮辱」「その他の著しい非行」を挙げていますが、そもそも、推定相続人の廃除は、遺留分権を有する推定相続人の相続権を奪う制度であることから、廃除事由に該当するか否かは慎重かつ限定的に行わなければなりません。依頼者の被相続人に対する生前の言動が廃除事由に該当しないことは明らかと言えました。
当事務所としては、依頼者は廃除されず、相続権を有していることを前提として、被相続人の上記遺言書が依頼者の遺留分を侵害している旨の通知書を送るとともに、依頼者の遺留分を保証すべく、遺言書と異なる内容での遺産分割協議に応じるよう、求めました。
その後まもなく、遺言執行者である長男の代理人より、依頼者の廃除の審判を求める家事審判の申立てが家庭裁判所になされました。廃除事由が認められるか否かが審判での主な争点となりましたが、遺言書には単に依頼者の廃除を求めるとだけ書かれており、具体的な廃除事由が何ら明らかでなかったことから、6ヶ月に渡る審理の末、申立ては却下されました。
その後、依頼者も相続権を有していることを前提として、長男夫婦との間において、遺産分割協議が行われました。依頼者の遺留分が6分の1であることから、依頼者の取得する遺産を全体の6分の1とすべく、交渉に臨みました。
遺産の中には、依頼者と被相続人との共有不動産も含まれていたことから、協議の末、遺言書の内容に関わらず、依頼者が上記不動産のうち被相続人の共有持分を相続すること、それ以外の遺産はすべて、長男とその妻が相続すること、その代償金として、長男から依頼者に1000万円を支払うことで合意に至りました。
以上のとおり、当事務所による交渉の結果、依頼者は被相続人との共有不動産を単独取得できるとともに、長男からの代償金1000万円を取得することに成功しました。
事務所からのコメント
遺言書に特定の相続人の廃除が明記されており、廃除審判が申立てられるという、実務上それほど多く経験しない貴重な事案であったといえます。 |
しかしながら、本件遺言書には「廃除する」とだけ書かれており、廃除事由が何ら記載されていなかったこと、また、本事案における被相続人と依頼者との間に「著しい非行」に該当するような事由は特に見当たらなかったことから、廃除申立てが却下されるのは明らかでありました。
このような遺言においては、遺言執行者の義務として廃除審判が申立てられるものの、却下されることが予想されますので、遺留分侵害額請求や遺産目録の開示要求その他、却下後を見据えた交渉に臨んでいく姿勢が重要であるといえるでしょう。
大阪の相続・遺言・相続税に強い 入江置田法律事務所の解決事例
※2020年5月28日更新
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この記事の執筆者
入江・置田法律事務所
弁護士・税理士・家族信託専門士
置田浩之(おきた ひろゆき)